向井メンタルクリニック

メンタルヘルス徒然草

2012/6/1 金曜日

プロの生演奏:今度はバイオリン!!

よし子さんはプロのヴァイオリニストである。私はその方に疎いのであるが、有名な方らしい。そんな人がある日、突然、人前でヴァイオリンを奏でようとした途端、手が震えて弦が震えるようになってしまった。何とか無理に抑えようとすればするほど、手の震えはひどくなり、当然弦は震え美しい音が出ない。困り果てて当院にお見えになった。

 

症状を訊けば訊くほど、いつもの「逆説志向」の適応のある方である。

 

 

そこで、いつものごとく診察室で演奏の練習、初日は楽器を持参されなかったので、とにかく、弦に似た長い棒を引く練習をしてもらった。

 

やっぱり!! 震えないね~~~!

 

ご本人述「アッレ~ おかしいですね~、震えませんね~」心配ならば服用する程度のお薬を処方した。

 

宿題として「震える演奏」を練習してくることにして、次回は実際の楽器を持参して当院で「震える演奏」をして頂くことにした。

 

1週間後実際の生演奏、すごいね~ 素晴らしいね~ 音痴の私が感心した、たったこんな小さな楽器なのに、こんなに大きな音で、なんて深いコクのある音なんだろう、と感動している私をよそに、彼女の手は全く震えず治療は完了した。

 

お薬は使用しなかったとのことであった。困れば来院して頂くことで当院を卒業いただいた。

 

 

プロの渾身の生演奏を聞かせていただいた。生演奏は一回で終了、治療も終了、もう、一回くらい聞かせてほしいな~と思うのであります。

 

 

たまには役得というものであります。いいなあ~ヴァイオリン

2011/8/20 土曜日

「あんたのパンツいつまで洗うの」?!

「あんたのパンツいつまで洗うの」?!強がって息子の前では、そう言ってはいたが、いざ息子が家を出ていってしまうと、寂しさが一気にこみ上げてきた。そしてなぜか無性に腹が立った。泣いた。涙は熱かった。
子供が小さい頃、主人が逝った。女手ひとつで、ここまで育てた。「子供のため、子供のため」だけを考えてきた。苦労もあった、大学も卒業させ、一流会社に入社、とにかく一人前に、一人前に、と思ってがんばってきた。いざ一人前になって就職で社会人、親元を離れてのお勤め、もう息子のパンツは洗えない。
・・・・・・しかも、これからは息子のパンツは彼女が洗うらしい!!フム!!!
何か気が抜けた。息子がいるときは「暑苦しいな」と思っていたが、いざいなくなると、一人きりのマンション、仕事で疲れて帰って「ただいま~」パチリと自分で部屋の電気をつける。家の中の空気の温度が下がってしまった。

本当に、鳥の雛が飛び立った後の「空の巣」・・・・・・・とりあえず、さびしい。

 ここで、男の下着を洗ってくれる女性の話をいくつか。

昔話の「鬼のふんどしを洗う女」

  あるとき、仲のよい男と女がいた。そこへ、鬼がやってきて、男を痛めつけた挙句、女をさらっていった。何とか助け出さねば。男は女を取り返すため鍛えた。空手、柔道、・・・・鍛え、鍛え、鍛え上げた。そして鬼の下へ・・・・。なんとさらわれた女は、のんびりと川で鬼のふんどしを洗っていた。女いわく、「だって仕方がないじゃない、いまさら」。女性の「環境適応性のよさ」の話か。

坂口安吾の小説に出てくる「青鬼の褌(ふんどし)を洗う女」

   堕落じゃなく、この人は「自由奔放・変幻自在に生きる女」でしょう。

 よしこさん、この10何年、「お母さん よしこ」として一人でがんばってきました。ご苦労様! また、旧姓の「××よしこ」に戻りましょうか。
男の下着を洗う女性は、「環境適応性」がよいのであります。そして「自由奔放・変幻自在に生きる女」であるのですから。

 

 

 

 

 

 

 

2010/9/2 木曜日

電車に乗れない!!(おならが出そう!!)

妙齢の恥も知るうら若き乙女のよし子さんは、「電車に乗れない」「後ろに誰かいると気になって仕方がない」というのも、電車に乗ったり、後ろに誰か人がいると「おならが出るような気がして、おなかがグルグルと鳴り始めるのである」とにかく電車にだけは乗れるようにしてほしい、とのことでお見えになった。

いつものように、逆説志向を試みる。「一度でいいから、時間のあるとき、目的地までのすべての駅で降りてやろうと思って実行して御覧なさい」と約束した。素直な彼女は、早速試してくれた。なんと、座っていて、お腹がどうも・・・と感じたら

「サア、降りるぞ!」

と決心する。途端に腹部の不快感は消えてしまったとのことである。これで電車は乗れるようになった。

ついで、「後ろに人が立つとお腹グルグル」この治療は少し時間がかかった。そこで名案「目に付いたトイレはすべて入ってごらん!」と約束をした。再び素直な彼女は試してくれた。現在ほとんど気にならなくなっている。後は、少量処方しているお薬を減量するのみ、もう薬も、なしでもいけるのに、製薬会社のいういわゆる「維持量」の数分の1しか処方していないのだから。

卒業は間もなくの予定、「まだちょっと自信がないから1~2月に1回程度通います」とのことである。

当然ご本人の了承を得てこの文章は作成されている。

2010/8/17 火曜日

患者さんに笑われる

また、患者さんに笑われてしまった。 

私の診察室からは、大きな笑い声がよく聞こえると昔から言われたものである。多くは患者さんと一緒に笑ってしまう。今回も私は笑われてしまった。しかも妙齢のお嬢さんにである。

よしこさんは、大手企業にお勤めになって、ほぼ1年仕事にも慣れて少し自分の時間を作ろうと、昔習っていたピアノをまた習い始めた。ところが、その先生の前に行くとカチカチになって手が震えてしまって、ピアノどころではない何とかしてほしいということでおみえになった。処方はほとんどなし、安心させるため、緊張したら使ってくださいと、頓用(困った時に使うこと)で安定剤を処方した。

例のごとく、逆説志向を行うことにして。「一度ここで震える練習をして見ましょう。私もしますから」と、よし子さんとともに、一緒に大きく震えながらピアノを弾く格好をした。なんと、彼女は全く震えていないのに気づいた。私は大真面目な顔をしながら、何とか彼女によくなってもらおうと、手の震える「名ピアニスト」を演じて見せた。我ながなかなかよく出来た演奏であった。

が!しかし、なんとなく彼女は、私を見ながらニヤニヤと笑っているのである。おかしいな~と思いながらも演奏は続いた。

2回目の来院「やっぱりピアノうまく弾けませんでした」とのこと。おかしいな~。私としては十分に彼女に効果があった自信があったのに・・・・

彼女いわく「違うんです、震えて弾けなかったんじゃないんです、先生(私のこと)の手の震える「名ピアニスト」が思い出されて笑ってしまってレッスンにならなかった、でも以後は楽しくピアノレッスンに行っている」とのことである。

「フム!!! なんということか!!!フム!!! 私の名演奏を!!!」 

治療2回で卒業!!! 2回目は、彼女は私を笑いに来ただけ・・・・複雑な気持ちヤネ!!!
まあいいか。彼女が楽しくピアノ楽しんでくれれば、私の任務は達成されたわけであるから。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

2010/8/15 日曜日

子供への愛情・夫への愛情

当院では、思春期の方もお見えになる。その際には、両親の付き添い、をお願いしている。病状説明、治療方針、お薬についてなど、ご家族にしっかりとご説明をするためである。そして最後に「何か、ほかにご質問は?」と聞く、成人の方でも、これをしておかないと私が何か気持ちが治まらない。

私自身のいわゆる「強迫症状」である。

ところで、話は戻って、未成年の方の診察・治療である。多くの付き添ってお見えになる親御さんたちは、動転しておられる。「自分の育て方が悪かったのでしょうか?私のせいでしょうか?」ご自身を責められる。このように親御さんたちに「浮き足立たれる」と未成年診断・治療は困難となる。

そこで、私はいつも言う「お父さん、お母さん、ご自身の子供さんに対する愛情を疑ってはいけませんよ~、考えて御覧なさい、スーパーにお買い物に行くでしょ、ああ、そうそう、あの子これ好きやったな~、そうそうこれもやったね、今晩のおかずどんなんが喜ぶかな」考えながら買い物してるでしょ、それで十分、あなたの心には、子供さんに対する愛情が、気がつかない間に出てきているんですよ!このように話をして、親御さんに自身を取り戻してもらい、落ち着いてくると、子供の方の治療がすすむ。

ところが、あるとき、妙齢の女性とこの話をしていたとき、

「私子供にやったら、そうかも知れんけど、旦那の買い物やったら、確か、うちの主人はこれ嫌いやったな、ソヤソヤ、これも嫌いやからこれにしとこと!買い物籠に入れてしまう」と思いますとのこと。その奥様と二人だけの、苦笑い、大笑いしながらの秘密。

子供への愛情、伴侶への愛情大きな差があります。

Freudは「愛と憎しみの葛藤の始まり」と言ったか、言わないとか、どこかで聞いたような気がする。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

2010/5/3 月曜日

「好々爺」

  「コウコウヤ」と読む。

よく巷で見かける中華料理屋さんの「好々亭:ハオハオテイ」のことではない。広辞苑によれば、「人のよい老人、ニコニコした優しそうな老人」とある。
この「好々爺」という言葉がぴったりのよし男さん(仮名)が、お見えになったのは、気持ちのよい気候の初秋の頃である。このよし男さんのDNAをそのまま受け継いだような、見るからに人のよさそうな息子さんと一緒にお見えになった。
  「自転車で出かけては迷子になって警察に保護されること数回」、心配したご息子さんが一緒にお見えになった。ニコニコしながら、よし男さんがおっしゃることには「いやあ~、あきまへんのや、すぐ忘れますのや、私、刺身が好きでんねんや、忘れて1日3回刺身、こうてきて(買ってきての大阪弁)おこられてまんのんや(叱られていますの大阪弁)」とニコニコ、ニコニコしながらおっしゃる。息子さんも、「そうですんや、まあ好きやったら、刺身何回、買っても、かまいませんけど」・・・と苦笑しながら、仲のよい親子である。「でも、迷子になって事故にでもあったら心配ですから、つれてきました」とのことである。
いろいろとお話を伺い、ご家族とも相談して、ご本人にGPS付の携帯電話を持っていただいたり、いろいろと工夫をした。そして、お薬、あんまり大きな効果を期待しないでください。私の家族なら処方しませんよ、とご説明の上で「物忘れの進行を遅くするといわれる薬」を希望されるのでお出しした

まあ!なんと!よし男さん1~2ヶ月このお薬を服用いただくとなんと!警察に保護されることがなくなってきた。「へぇ~、チョッとは効果があるんだ」と感心しながら、またよ~く話を伺って考えてみた。
初めてお見えになったのが初秋の頃、サイクリングシーズン、自転車でお出かけには誠に気候のよい頃で、この数ヶ月ですっかり寒くなり、自転車でお出かけすることがなくなり、ご高齢の方用の「地下鉄無料パス」を利用して散歩に出かけているという。道を間違えそうになると、とにかく地下鉄に乗ってしまえば何とか地元の駅に到着、帰宅できるそうである。よし男さんは、大阪弁からわかるとおり、根っからのから大阪の方で、地下鉄の駅名、地名がわかれば帰ってこれるとのことである。「薬の効果か」?さては、「昔の記憶か」
でもやっぱり、ニコニコ、ニコニコしながら楽しそうに「お刺身は毎日3回買って、怒られてまんのんや」とおっしゃるよし男さんである。
よし男さんがお見えになると、なんとなく私もほっとして、ニコニコしてしまう。
大阪の由緒ある地名がどんどん失われ変わりつつある。道の迷うご高齢の方が増えるのではないか心配である。

当然、この話はご本人の了解をいただいた上で、ご本人とわからない程度に変更してある。

2010/2/12 金曜日

「きっかけは楽しく喋りすぎ」:楽しく喋りすぎてPanic障害になった話

  昔から、大阪弁で「女3人よれば、かしましい」というが、この人、よし子さんCと話していると、大変楽しいが、たった1人で「かしましい」のである。とにかく早い、1分あたりの字数は800900文字くらいだろうか。とにかく息せき切って喋っては、楽しそうに笑う、そしてなかなか止まらない。ご本人によれば喋りたいことが「イッパい、イッパい」あって、すべてみんなに教えて、一緒に楽しんでほしいのだそうである。この人が3人いたらどんなことになるだろう。それに対して、私の喋り方は、普通400字詰め原稿用紙を約1分より遅いかもしれない。対照的である。足して2で割るくらいがよいか。

よし子さんCは、話をしていると、手足がしびれてきて、呼吸ができなくなるのではないか、胸がドキドキしてしまう、心配で、心配で仕方がないという。初めは定型的なPanic障害~過呼吸症候群だろうと考え少量のお薬を処方すると同時に、何か心配ごとでもあるのか、・・・・などいろいろとお話を伺っていた。多くの場合、背景に心配事があったりすることが多い。どうもこの人は違う。屈託がない、話も面白い、診察室が明るくなる。ただちょっと心配症。

そのうちにハッと気がついた、よし子さんCは喋りすぎて過呼吸を起こし、引き続いてその他の症状が出ているのではないか?

そこで、彼女にゆっくり会話をする練習をお願いした。あまりに早く喋りすぎて~喋りすぎて~喋りすぎて、過呼吸になっているのではないか?普通の人でも、急に走ったりして呼吸が荒くなると同様の過呼吸症状が出現する。

1)呼吸がはやく、浅くなると血液中のCO2分圧が下がるので、過呼吸症状群が生ずるといった理論を大昔学生のころに習ったのを思い出した。

2)昔、学会発表にため原稿を作るために教えられたのは、400字詰め原稿用紙を約1分で読むくらいの速さで話す、と教えられた。大昔のニュースをテレビなどで見ているとこのくらいの速さで話している。今の学会は皆忙しいから600文字くらいか。

この二つのことを、ゆっくり説明して数週間かけてその練習をしていただいた。なんとPanicが明らかに少なくなったとのこと、でも心配なので少量のお薬と通院は続けたいとのこと。

ブログに書く了解をお願いすると、「きっかけは楽しく喋りすぎ!」にしてほしいとのことであった。「楽しく」の一言「忘れたらあかんよ~」とのことです。屈託がないのである。

通院も「卒業」できるのにネ~と毎回診察の時に話をする。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

2009/12/13 日曜日

男と女 Un Homme et Une Femme No3「浮気主人(彼氏)を手のひらに乗せる:恋愛の精神病理学的考察」

「頭から湯気が出る」と昔からよく言われるが、実際、よし子さんB(仮名)の場合湯気が立っているように思えた。友人から聞いたとのことで,当院へお見えいただいた。
「旦那が浮気しているのがわかって腹が立って仕方がない、いらいらして仕方がない、何とかしてほしい、別れようかとも考えている」ということであった。ちょっとこれは人生相談に近いからお話を聞きながら、どうしようか考えていた。まあ、あまりの興奮があるので、いつもの「まあ、ちょっと頭冷やしに通ってみる~~~~」と、話を聞いてみることにした。ゆっくりと話を聞いてみると、「どうも別れるつもりはないらしい」。長年連れ添ったお二人を、何とか元に戻す方法はないか?
そこで、「ご主人を手のひらで、泳がして、見る気ない???」と聞いてみた。「エッ、そんな方法ある?」と半信半疑。とにかく「一度試してみる、それでだめやったら、別れたらええないの?」との私の提案に乗ってきた。
それはね、それはね「ゴニョゴニョゴニョ・・・#$%&‘()“#$  (企業秘密)  %&*+‘‘‘>????ゴニョゴニョゴニョ・・・」噛んで聞かせるように説明して、一度でいいから1週間試してごらん。しぶしぶ、半信半疑彼女は「試してみるわ!」とのことであった。
1週間後、不敵な笑顔で・・やってきた彼女、「先生!びっくりしたわ!うまいこといったわ!フフフフフ・・・(少し女の怖さを私は感じた)私、久しぶりに、迫られテン、ホンマ久しぶり・・・腹たってたから、拒んだろう、思ったけど、ヨウ拒まんかったは!」ちょっと、私が赤面するような内容。この後もね「どこか食べにいこ~よく外食に誘われるようになった」とのこと、この後ご主人の自慢話、違う方向で「湯気が出てますよ!」。「うまいこといったね~~~、旦那もう手のひらで泳いでるね・・・孫悟空と一緒、お釈迦さん(よし子)さんの手の中で泳いでるね、面白いやろ、別れんでよかったね・・・・」とよし子Bさんと二人で、旦那の行動をほほえましく、ほくそえみながらお聞きしている。何ともコケットな感じのかわゆい方である。
同様の方法で、夫婦の「離婚の危機」を解消したカップルがおられる、「帰るコールを毎日入れるようになったご主人:帰るコール亭主」「毎日定時に帰るようになったご主人:伝書鳩亭主」・・・・・・かなりおられる。
私は「世の中の、浮気ご主人方の敵」かな~、フフフまあいいか!仲良い夫婦続いてくれれば「意識障害」をさめさせずに「恋愛妄想」を続けるのもよいことか??意識障害も妄想も治す必要はないです!という結論。
たまには、精神病理学などと、わけのわからない学問も、世の中のお役に立てうるということです。

元気でね!お二人仲良くね!よし子さんB(仮名)旦那さん、君の掌の中でゴソゴソしても大丈夫、御釈迦さんの手の中の孫悟空みたいヤネ。
当然、この話はご本人の了解をいただいた上で、ご本人とわからない程度に変更してある。

逆説志向No3:書痙の精神療法(人前で字を書こうとすると震えてしまう)

書痙(しょけい):人前で字を書こうとすると震えてしまうような症状は、「逆説志向:ギャクセツ シコウ」にうってつけの症状である。

書痙の患者さんは比較的多く当院にお見えになるが多くは数回の逆説志向のセッションを行うと治ってしまう。

簡単、例のごとくに図を書いて患者さんに考えてもらう。

症状:書痙 字を書こうとすると震える ←  ←  ←  ←  ← ← ←

↓                                  ↑

格好が悪い、変な風に見られる                ↑

↓                                  ↑

人に見せたくない                         ↑

隠そうとする、止めようとする                  ↑

↓                                   ↑

また、症状が出るのではないか。(期待不安):不安の増強                     ↓                                   ↑

⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒

(期待不安がキーワード)

そして、やおら鉛筆と紙を取り出して、意識して一生懸命震えながら、住所や名前を書いてもらう。多くの人は最初の数行は震えるが、2~3行も字を書いているとむしろ震えられない自分を見出す。ついでにカルテを見せて、私の字を見せる私の字のほうがきたない。私は悪筆で有名なのである。ある患者さんカルテを見て「ドイツ語かと思いました」だって、私は、カルテは患者さんにも見てもらってもよいように日本語で書く主義である。

このような逆説志向のセッション、数回1~2週間に1度する。その間に人前で出来るだけ、震えるつもりで字を書く練習をしてきてもらう。多くの患者さんは数回で楽になるという。 薬物療法も多くは緊張がひどいときのみといった処方で済む。

多くの人が数年にわたり困っているという。この治療法は私が好んで利用する、心療科で、これほど劇的な効果がみられるものも少ないからである。

ある患者さんは、あまりに劇的な改善を見て、泣かれてしまった「格好が悪いといって数年にわたって家にこもって出れなかった」。数回セッションで手の震えが止まり「いったい私のこの数年はなんだったんだろう」と泣かれてしまったときには、私もうれしかったがびっくりした。

私は女性に泣かれるのは弱いのである。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

文献

1)精神医学大辞典(講談社)

2)V.E.フランクル:高瀬博、長瀬順治訳「現代人の病」-心理療法と実存哲学-(丸善)

2009/11/3 火曜日

逆説志向No2:強迫性障害の精神療法 確認、確認、・・・・・

ヨシオ(仮名)さんは小荷物の分類、配達の業務をしてもう何年にもなる、ベテランである。約1年前にチョッとしたトラブルを同僚がしてしまった。担当ということで、たいして関係ないが、彼が上司と一緒にお詫びに行った。

元来まじめで、几帳面な ヨシオ(仮名)さんは、それ以来、自分が間違えて配達したのではないか、気になって仕方がない、自分に自信がなく、分類するのに、ばかばかしいとは思うが4~5回も確認を繰り返してしまい、自分でもたまらない、確認、確認に明け暮れて一日が過ぎてしまう。次第に、家から出かけるときにも「戸締りは? ガス栓は? クーラーは? 水道は?・・・確認が止まらない。何回も繰り返すため、時間がかかって外出できず会社に遅れそうになったことがしばしばである。こんなことなら一度心療内科にでも、というので当院にやってこられた。

「自信喪失性強迫性障害」と診断した。強迫性障害でも種々あるのである。

このタイプの人には「逆説志向:ギャクセツ シコウ」がよく効く。さっそく

「強迫性障害を恐怖し予期不安におびえて、不安から逃れることに腐心し、は強迫に対して不安を強め、強迫観念を抑えつけようとたたかうのであり、不安から逃れようとすればするほど、強迫に逆らえば逆らうほどかえって不安や強迫は強化さる」症状は悪化することを説明。「これに対して、逆の方向に志向しようと努める。・・・もっと不安にもっと強迫的になろうとする。」と楽になると下記の図を見てもらいながら説明した。

症状:(強迫性障害:確認・・・・・・)

↓                                      ↑

変な風に見られる、格好が悪い、人に見せたくない       ↑

↓                                      ↑

隠そうとする、やめようとする                     ↑

↓                                      ↑

また、症状が出るのではないか。(期待不安):不安の増強  ↑

↓ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒

期待不安がキーワード

治療と経過

「もっと自信を持って、確認するように徹底的に!!確認は最低5回はするように」と指導した。このように非常に逆説的であるので、半信半疑であったが、根がまじめな彼は試してくれた。少量のお薬も使用しながら。

1週後(受診2回目):チョッと楽になってきている、相変わらず確認はしているが「マァ~、シャーないな」と思うと確認回数は減ってきたとのこと。「ちょっと自信ができてきた」とのこと、ここで、当院ブログの「強迫性障害とfail safe」の話を読んでもらうよう話した。

3週後(受診3回目):調子のよい瞬間が増えてきているのがわかる。配達も15階あれば5階まではそんなに確認せずに済んでいる。

5週後(受診4回目)家を出るときの確認が減ってきている。戸締りを5回も確認するのは無駄だと思うようになってきている。お薬は約半分にする。

2月後(受診6回目)「ヤァ~久しぶり」「マアいいか~」「大丈夫だな~」「楽になった」・・・

当院「卒業」に向けてお薬は減量中である。主治医としては、うれしい様な、ちょっとさびしい様な・・・これが本来の医者の任務であります。

この話は、「僕のように楽にる人が知るならば、ブログに書いてもいいよ」と、ご本人の了解を頂いて書いている。ありがたい話であります。先日、見えた時に「まだ載せてないの?楽しみにしてるのに・・」と言ってくれた。ただご本人に迷惑がかからないよう、本人が特定できない程度に変えてある。

逆説志向No1:社会不安障害、パニック障害、強迫性障害、過呼吸発作・・・の精神療法、治療

「ギャクセツ シコウ」と読む。ロゴセラピーという精神療法の技法である。ウィーンのV.E. フランクル という精神科医が数十年も前に創った。

社会不安障害、強迫性障害、赤面恐怖、対人恐怖、過呼吸発作、パニック発作、書痙(しょけい:人前で字を書こうとすると震えてしまうような症状)、吃音(どもり)、閉所恐怖などの症状にお困りの患者さんに劇的に効果がある。

もうこんな精神療法の一種があることも、「逆説志向」などという言葉を知らない精神科医が多いのではないか?

最近では、上記のような障害には、薬物療法を中心として、精神療法的には認知行動療法、内観療法などが主として行われるが、なぜこの治療法があまり用いられなくなったのか?不思議である。

あまりに劇的に効果があるので、はやらなくなった?? 薬物療法を続けておくほうが当然医者としてはエネルギーは少なくて済む?

むしろ、V.E. フランクルといえば、「夜と霧」というほうがご存じの方が多い。一方でこのような素晴らしい、精神療法の技法を残しているのである。

精神医学大辞典(講談社)にはその理論として、以下の様に説明している。

「不安神経症(現在のパニック発作に相当するであろう)の患者は不安発作を恐怖し予期不安におびえてこれらの不安から逃れることに腐心し、強迫神経症(現在の強迫性障害に相当するであろう)は強迫に対して不安を強め、強迫観念を抑えつけようとたたかう・・・・・、このように不安から逃れようとすればするほど、強迫に逆らえば逆らうほどかえって不安や強迫は強化され・・・」症状は悪化する。「これに対して、逆の方向に志向しようと努める。・・・もっと不安にもっと強迫的になろうとする。」

このように非常に逆説的である。

精神医学大辞典だからこのように大変わかりにくい。簡単なことを、難しそうに説明しようとするのが学者の役目である。

だから、わかりやすいように、多くの場合以下の様な図を書いて患者さんに考えてもらう。

症状:(強迫性障害、赤面恐怖、対人恐怖、パニック発作、書痙、吃音、閉所恐怖、電車に乗れない、飛行機に乗れない、過呼吸発作・・・・)                                              ↑

変な風に見られる、格好が悪い、人に見せたくない       ↑

隠そうとする、やめようとする                     ↑

また、症状が出るのではないか。(期待不安):不安の増強  ↑

↓ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒

期待不安がキーワード

上記の悪循環を断ち切るためには、どこを切るのが最も手っ取り早いか?

そしてヒントとして、多くの患者さんは、診察室に入るやいなや、この症状を隠そうとしないで積極に症状について話していることを指摘する。診察室では症状は出ない、なにしろ患者さんは症状を治療者に見せなければならないのだから。 そこで多くの方は「ハッと気がつく」、そう医者の前では隠そう、やめようとせずむしろ積極的に見せているからである。

そこで、症状の復習、私の前で、患者さん本人の症状を出す練習をしてもらう。診察室の中で確認:強迫性障害、顔を赤くする:赤面恐怖、対人恐怖、パニック発作:パニック発作、書痙、吃音、閉所恐怖、電車に乗れない、飛行機に乗れない、過呼吸発作・・・・、多くの場合、出そうとすればするほど、症状は消失してゆく、後は「もっと自信を持って、症状を出す練習を、さらに次回までの宿題としてお願いしておく」、たいていの患者さんは、数回この様なセッションを行うと、症状は消失するか、軽快する。

最初、患者さんは、たいていこの話をすると、懐疑的あるいは心配でその一歩を踏み出せない。だから、薬物療法を少し、ほんの少し行うと、「宿題をする際」に踏み出しやすくなる。

大体1~2週間に1回、数回くらいで軽快状態に入る。 症状が軽快し始めたら、薬物療法のやめてゆき方を指導する。うまくいったら「卒業」である。だいたい数カ月、本当にうまく行けば、1~2回のセッションで「卒業」する。

この治療法は、V.E. フランクル著:高瀬博、長瀬順治 訳「現代人の病」―心理療法と実存哲学―(丸善)に詳しい。当院に来院しなくても、うまく理解できる方ならこの本をお読みになることをお勧めする。

学生時代、二日酔いで苦しむ私に、ある同級生が「お酒を一日飲んだだけで、二日も酔っていられるなら、それは幸せであると考えろ」と言った。これもある意味、逆説志向、私も二日酔いになるほどお酒を飲まなくなった。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

文献

1)精神医学大辞典(講談社)

2)V.E. フランクル著:高瀬博、長瀬順治 訳「現代人の病」―心理療法と実存哲学―(丸善)

2009/10/20 火曜日

男と女 Un Homme et une Femme No2「刷り込み:恋愛の精神病理学的考察」

  よし子Aさん(仮名)の表現は興味深く、大変、すばらしかった。うまい、なんとも言えず「男と女」の心の関係を衝いている。了承をいただいて、彼女の言葉を書いている。当然ご本人の個人情報は含まない程度に変更してある。 

 前回、古典的な精神病理学では、恋愛は「妄想知覚」か、あるいは「意識障害」に分類される話をした。標準的な精神病理学をかじった人なら、前回の理論構成で「恋愛の精神病理学」は終了する。  

 一方、よし子Aさん学説は、あの有名な動物学者コンラート ロレンツか、シートン動物記か? 

初めてよし子Aさんが当クリニックへ見えたとき、大変機嫌が悪く、「プリプリ、カンカン」怖かった。というのも、付き合っていた男性に別れ話を持ち出され、あまりの腹立たしさに暴れたところ、彼が当院を受診させたのだそうである。 

「まあ~まあ~、そう怒らんと~、数回、頭冷やしに来る~?」の私の言葉に誘われて、何回か当院にやってきてくれた。いろいろと話をする。うち解けてみると、なんと、チャーミングで聡明な人であった。 

数回目のセッションで、  「私もわかっているんです、あんな男のどこがいいのか、早く離かれたほうがよいのはわかっています。 でもね、先生、あれ(彼)はね、私の初めての男なんです、わかりますか、鳥の雛が孵ると、最初に見たものをズッと親と思い込むんでしょ、それなんですよ・・・{刷り込み:Inprint}とか、いうんでしょ、だから離れられないんですよ~~」。 

よし子Aさん、うまい!小説家?動物学者?精神科医? 

その後何回か、彼女はやってきてくれた。次第に落ち着いて暴れることもなくなった頃、 

「先生、雛もね、大人になるでしょ、そしたら、巣立ってゆくでしょ・・・私もその時期が来ているんでしょうね・・・・」と笑いながら話すようになった頃、彼女は当クリニックを、卒業というより「巣立っていった」。 

頭のよい人というより、人の気持ちのよくわかる人、中途半端な精神病理学者より「人間通:Menschenkoenner」!すばらしい自己分析・・・・フゥ~ム参った

よっちゃんA、今頃どこを飛んであるのかな~。元気でね!(仮名)

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

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